【鼎談】江﨑文武×ermhoi×常田俊太郎 part.2

【鼎談】江﨑文武×ermhoi×常田俊太郎 part.2

2021.10.13

【鼎談】江﨑文武×ermhoi×常田俊太郎 part.2

#ARTIST TALK

Photography_Yudai Kusano
Text&Edit_Akane Ono (POST-FAKE)

2021.10.13

【鼎談】江﨑文武×ermhoi×常田俊太郎 part.2

#ARTIST TALK

「リアル」と「フェイク」の狭間で

10/12よりTOKYO MXにて放映を開始した〈POST-FAKE〉。その番組の顔となる楽曲を手掛けたのがWONK/millennium paradeのメンバーであり音楽家の江﨑文武氏、そして同じくmillennium paradeのメンバーでシンガーソングライターのermhoi氏だ。今回は2人と親交の深い、〈POST-FAKE〉プロジェクトの立役者、常田俊太郎氏を交えた3人の鼎談企画。出会いや楽曲制作の裏話をはじめ、盛り沢山の内容をpart.1とpart.2の二編でお届けします。

常 「プロジェクト名を〈POST-FAKE〉にしたんだけど、そもそも“本物”と“偽物”の境目とか、“リアル”と“フェイク”の境目ってどこなんだろうね」

江 「難しいね。答えることで思わぬ敵を作ってしまうかもしれない(笑)」

e 「まず自分が本物だって思ってないからね。思いたいかというとそうでもないし。そういう線引きって難しいよね」

江 「プロとアマの違い、とかもよく聞かれるけど難しいよね」

常 「巧拙がプロやアマの一つの基準になることもあるけど、文脈を変えた時にそれだけでないまた違う見え方をしたりとか、価値が生まれたりすることもあるから難しいよね。アートもまさにそうだと思う・一つの尺度では測れない。もちろんその中でもいわゆる前線を走り続けているアーティストたちは凄いとは思うけど、それだけでいうとトップの人たちだけがプロで凄いってなっちゃうし。そうでない場所で別の戦い方を模索するのもある意味プロフェッショナルだろうから」

江 「そうだね。強いて言うなら、自分の創作や表現活動に一貫したテーマがあるかどうかというのが、プロフェッショナルとアマチュアの違いというか、フェイクとリアルの線引きができるのかも。例えば何かを社会に発信していきたいとか、音楽を聴いてくれた人にどう思ってもらいたいとか、ただひたすらに自分の美しいと思ったものだけを集めているとか。そういうなにかしらのぶれない軸がある人たちって本物だなって感じる。例えば写真家のヴィヴィアン・マイヤーは生前1枚も写真を作品として発表していないけれど、素晴らしい作品をたくさん残している。彼女の場合は自分の私生活を撮り貯めていくことだけがテーマだったと思う。彼女みたいに自分の表現や制作に1つのテーマがあればそれで十分なのかなって気はする」

e 「とてもいい答えを出してくれたね(笑)」

常「これ以上言うことないよね(笑)」

江 「いや、実はこの言葉自体もフェイクかもしれない(笑)」

常 「あとermhoiや文武って、メディアの必要性についてはどう思う? SNSの普及で個々人がメディアを持っている時代に俺らは新たなメディア/プラットフォームを作ろうとしているんだけど、それって不要とか思う?」

江 「僕はメディアが不要だとは全然思わないかな。日本的なメディアの話だけをすると、Twitterのタイムラインだけを追っておけばなんとなく世の中のことは分かるし、Yahooニュースのコメント欄なんかは、なんとなくSNSと従来のメディアのハイブリッド型みたいな形になっている気がして、それはそれで良いなとも思う。だけど僕はむしろプロフェッショナルによって完全に編集されて、素人の意見が立ち入る隙がないみたいな、昔ながらのメディアの方に気持ちが傾きつつあって。例えば『日経(経済新聞)』の電子版とか読んでる(笑)」

常 「『日経』電子版読んでるミュージシャンはなかなか少ないと思う(笑)」

江 「ノイズがないんだよね。誰と誰が交際しているとか、不倫しているとかみたいな。くだらないニュースに対していろいろな人がああだこうだ言っているのがどうしても目に入ってしまうメディアはストレスになってしまって。それよりも日々政治や経済のことを追い続けているプロの人たちの声を聴いて、自分の中でちゃんと消化したい。プロが丁寧に編集しているメディアは自分から情報を取りに行きたくなるよね」

e 「私はフリージャーナリストがブログに書いている記事を読んで、そこで得た情報をもとに他のニュースに飛んだりしてる。そこからいろんな事実を仕入れているかな。大きな母体のあるメディアではなく、個人のジャーナリストたちが私にとっての情報のキュレーター。そういう人たちが追っているニュースをさらに遡るって方法で最近は情報収集してる。枠に捉われずに俯瞰的な見方が出来る人たちの言葉を通すことで、一方的な情報の見方をせずにすむのかなと」

常 「きちんとしたテーマや軸がないメディアの価値はほぼ無くなっているよね。ただのキュレーションされてない情報を垂れ流すだけなら意味がないから。でもそんなメディアが主流になってきてるから、逆にメディアとしての哲学や軸がきちんとあればむしろ価値は上がるってことなんじゃないかな」

江 「音楽のニュースメディアサイトも大半がアーティスト側から発信した情報のコピペなんだよね」

常 「大半がそうだよね。0→1のクリエイションがほとんどないというか、そもそもジャーナルですらないというか……」

e 「たくさんフォロワーがいてプラットフォームがあるのに、もったいないよね」

常 「ウェブメディアはトラフィックを稼ごうとすると手数勝負になってしまうから、結局オリジナリティがなくても数を出した方が良いって論理が働いちゃうんだよね。ある意味全員読者だけど、誰も読者じゃないみたいなメディアがたくさんあるもん。でも、それが今のメディアの主流だから、結局そこに歯向かっていくメディアを作るとなると相当何かないといけないってことなんだろうなって」

江 「最近のウェブはいろんな方向からの批評が起こりにくい場所になっているよね。よく持ち上げられている「論破」することなんかは議論が一方向的に終わっちゃうだけで何も良い事じゃない。そうじゃなくてもう少し違う意見を持った人たちが批評し合う場があっていいと思う。それが出来ない今の環境と、コピペだけして自分たちの軸や哲学なしにニュースを拡散していくのは似た香りがするなって。新譜を出しましたってリリースに対して、ただそれをそのまま垂れ流すのではなく、『なんだよこれ酷い出来の曲だな』なんて書いちゃうメディアがあっても良いんじゃないかって思うんだよね。海外だとPitchforkとかそうじゃない」

e 「確かに批評するメディアは少ないよね」

江 「だから〈POST-FAKE〉はぜひ批評的でちゃんとした軸のあるメディアであってほしい」

常 「それがどこまでちゃんと出来るかだよね。ただの情報垂れ流しにはない、すべてが0→1のここでしか得られない情報のあるメディアにしようとは思ってる」

e「期待してるね!」

PROFILE

江﨑文武

音楽家

1992年、福岡市生まれ。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学音楽学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。WONK, millennium paradeでキーボードを務めるほか、King Gnu, Vaundyなど数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加。映画『ホムンクルス』(2021)をはじめ劇伴音楽も手掛けるほか、音楽レーベルの主宰、芸術教育への献身など、さまざまな領域を自由に横断しながら活動を続ける。2021年、ソロでの音楽活動をスタート。

WEB ayatake.co
IG @ayatake

ermhoi

シンガーソングライター、トラックメイカー

日本とアイルランド双方にルーツを持ち、独自のセンスで様々な世界を表現する、トラックメーカー、シンガー。2015年1st Album 「Junior Refugee」をリリース。以降イラストレーターやファッションブランド、映像作品やTVCMへの楽曲提供、ボーカルやコーラスとしてのサポートなど、幅広い活動を続けている。2018年に小林うてなとjulia shortreedと共にblack boboi結成。フジロック’19のレッドマーキー出演を果たす。2019年よりMillennium Paradeに参加。2021年10月には新曲”埋立地”を発表。

IG @ermhoi

常田俊太郎

1990年、長野県生まれ。東京大学工学部卒業後、戦略系コンサルティングファームを経て株式会社ユートニックを共同創業。アート・エンターテインメント領域におけるアプリケーションの企画、メディア・コンテンツのプロデュースや、コンサルティングに携わっている。ミュージシャンとして、ストリングスを中心にアレンジやレコーディングなどの活動を展開。millennium paradeでオーケストレーションを担当するほか、King Gnu、Vaundy、加藤ミリヤなどの楽曲にレコーディング参加。

WEB shuntarotsuneta.com
IG @shuntaro.tsuneta

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