2022年のPOST-FAKEへの大山の出演をきっかけに企画された本展では、新たに制作された12点の新作を展示します。エアロゾル・ライティングのビジュアルを再解釈した独自のモティーフ「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を、アノニマスなイメージの上に加筆する「ファウンド・オブジェクト」シリーズの最新作です。古地図にQTSを重ねることで、ニューヨークの地下鉄の記憶を呼び覚まそうとする本作には、大山のコンセプチュアルな姿勢が垣間見えます。地図が持つ平面的な広がりのみでなく、はじめに古地図が作られたとき、見知らぬ誰かの手によって赤や緑の線が引かれたとき、そして大山によってQTSが加えられたときという幾重にも編み込まれた時間に思いを巡らせながら、ぜひご鑑賞ください。
「ファウンド・オブジェクト」シリーズでは、匿名の図像にクイックターン・ストラクチャー(QTS)をかき加えています。本展で紹介する「Map Drawings」はその最新作です。
1970–80年代のニューヨークで発展したエアロゾル・ライティングは、都市を横断する地下鉄をメディアにして、さまざまなエリアに拡散しました。そのため当時のライターの心理には、都市を俯瞰する地図の視点がたえず組み込まれていました。彼・彼女らが好んで地下鉄の路線図にドローイングしたのは、そうした理由によるものです。
2021年の夏、英国オックスフォードの古道具屋で、私は12枚の古地図を見つけました。用途ははっきりしないが、新旧の行政区域の境界を示しており、なんらかの公的文書だったと推測できます。興味を引いたのは、複数の区域が同一平面に並置されていた点です。それは異なるエリアを走り抜けて結びつける、地下鉄の横断性を想起させました。
「Map Drawings」では、同一平面にある複数の区域の外形を与件とし、その間に置かれたQTSの一部がそれらと接するように描画することで、地図同士が縫い合わされています。QTSの形体と周囲のフレームの接触は私の作品によく見られる特徴ですが、QTSを媒介に複数の形体がつなぎ留められる状態は、本作に固有の現象です。
「Map Drawings」においてQTSは、走行する地下鉄の車体、または線路のネットワークという、その出自と切り離すことのできないモティーフの姿を、時空を超えて自らのうちに反響しています。「ファウンド・オブジェクト」シリーズのなかでも、本作は特にコンセプチュアルな意図を持って制作されたと言えるでしょう。
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