Burning Drop
Interview with Jiro Konami

Burning Drop
Interview with Jiro Konami

2022.04.05

Burning Drop
Interview with Jiro Konami

#ARTIST TALK

Interview_Sohei Oshiro (POST-FAKE)
Text & Edit_Akane Ono (POST-FAKE)

2022.04.05

Burning Drop
Interview with Jiro Konami

#ARTIST TALK

父と子。日本とアメリカ。そして自分自身。 写真家、小浪次郎の10年の軌跡を辿る。

今から約10年前、若き写真家が手掛けた一冊の本が世の中をざわめかせた。『父をみる』。その名の通り、息子が自身の父を撮り続けるという極めて私的なコンセプトの写真集だが、父と子の絆以上のものがそこには写っていた。それは今見返すと、写真家・小浪次郎の傑出した才能の萌芽に溢れている。この一冊は小浪氏が世にでる一つのきっかけになったと言えよう。そのリリースから10年。活動拠点をニューヨークへと移し、娘の誕生により自身も父親となった小浪氏。今再び『父をみる』と向き合い、その続編ともいえる300ページもの作品集を作り上げたという。『黄色い太陽』と名付けられたその新たな写真集の発売と、同名の個展の開催に合わせて帰国していた小浪氏に実際に話を伺った。小浪次郎が歩んだ10年の軌跡とその痕跡とも言える写真について。

ー 作品集の刊行と個展の開催おめでとうございます。この『黄色い太陽』というプロジェクトを始めたきっかけは何でしょうか? やっぱり娘が生まれたからですか?

そうだね。父親を撮っていた自分と、父親になってからの自分。その二つを絡めたら何かしらの作品が生まれるんじゃないかと思って。父親が亡くなる前に『父をみる』を出版したんだけど、亡くなってからもその延長線上にあるような写真をたくさん撮っていて、どこかのタイミングで発表したいなと。拠点を東京からニューヨークへ移したのもあるけど、子供が生まれたのが一番大きいかな。

 

ー それで一冊にまとめたと。

そう。写真集の良さって、いろんな景色や想いを一つに繋げることができることなんだよね。日本の風景やアメリカの風景、自分の父親の姿や娘の姿、そして父親になってからの自分自身。それぞれ違ったものだし、それぞれ違った写真の撮り方をしているのに、一冊にまとめることでそれらがリンクするんだよ。10年前に見ていた景色から今見ている景色まで、10年分の自分の記憶や記録が詰まっているんだと思う。

 

ー 写真集『黄色い太陽』は、装丁やレイアウトがとてもストレートでクラシカルな印象を受けました。

今回あえてベーシックな作りにしたんだよね。俺がずっと見てきたアメリカや日本の昔の作家たちの写真集もそうなんだけど、結局一枚一枚をちゃんと見せるってなるとシンプルな構成に行き着くんだと思う。特に近年はデザインや装丁が凝っている写真集が多いから、あえてストレートな見せ方にしようかなと。しかも今回扱っているテーマが「家族」だから他者に共感してほしいというよりは、とてもパーソナルないわば私小説みたいなものなんだよね。304ページを通して一つの物語を綴っているわけだから、余計なことはしなくていいなと思って。

ー 家族を撮影する際って、やはり他の被写体へのアプローチは異なりますか?

全く違うね。俺にとって家族を撮るというのは特別なこと。感情の入り方も全然違うし。強い言い方をすると、俺にとっての被写体って「家族」と「家族以外」なんだよね。「家族」を撮る時だけ“個人的な感情”っていうフィルターが入ってくるから。他のフォトグラファーはどうかわからないけど俺の場合はそうかな。

 

ー 実際に自身が父親になってみて、写真に変化はありましたか?

写真表現そのものは変わらないと思うけど、普段自分が見ている景色や見せたい景色は変わってきたかもしれない。視野が広がった感覚というか。八丈島で自分の父親を撮っていた時は割と前しか見えない状態だったけど、父親になって自分の娘を撮っていると娘が見ている景色が気になったりするんだよね。こないだもう一度八丈島に戻って撮影してみたんだけど、やっぱり前とはどこか違う感覚だったし。

 

ー 今あらためて『父をみる』を手に取ってどう思います?八丈島でこの写真を撮っていた十数年前の自分に何か言いたいことはありますか?

何もないね。もう過去のものだから。過去に何か言うことはないかな。これはこれで完成していて当時の感情が見ることができるから。

 

ー 今回なぜ『黄色い太陽』というタイトルにしたんですか?

いろんな理由があるんだけど、大きな理由は自分の父親が黄色い太陽の絵を描いていたから。『父をみる』にも『黄色い太陽』にも載せてるんだけど。太陽って人によって色の認識が違うんだよね。俺の娘は赤って言っているし、父親は黄色で描いているし、オレンジだって人もいる。それって面白いなと思って。皆が思う価値観のズレと絶対的な何かみたいなものを対比させたくて。

 

ー 英題の『Burning Drop』というのは?

勝手に組み合わせた俺の造語なんだけど、丸い情熱みたいなものが沈んでいく様を表したかったんだよね。家族をテーマにした写真集ってどうしても個人の感情が出てしまうから、そういった感情の移ろいみたいなことをタイトルにしたくて。

 

ー 今回の写真集刊行に合わせた「渋谷PARCO」での展示についても教えてください。

90点ぐらい展示しているんだけど、写真集の作りと一緒であえて余計なことはしなかった。ロバート・フランクやダイアン・アーバスみたいに、ちゃんと一枚一枚の写真をアカデミックな方向で見せたかったんだよね。しかも「渋谷PARCO」って場所柄みんなポップな手法だったりギミックを凝らした手法で展示しがちじゃない? それやってもそのままだし面白くないから今回はシンプルでストレートな展示にしたかった。まぁそれが自分のスタイルなんだけど。

 

ー 写真集も展示も「ストレート」に見せたかったと。

そう。何もかもが早い時代だから小手先の技術やギミックに頼りたいのはわかるけど、何十年も前の写真集で今も残っているものって結局シンプルなんだよね。「写真をちゃんと見てくれ」っていう作り手の意思が伝わってくる。熱量も圧倒的に違うよね。細江英公さんや深瀬昌久さんの写真集見ていても、写真にかける情熱やバイタリティがマジですごいなって思う。テクニックもあるのに実験精神が半端ない。そういうの見るとちゃんとやんなきゃなって思うもんな。

 

ー 確かに現代はSNSも相まって表層的な写真が多いですよね。

もっといろんなものを見たり知ったりした方が良いよね。特に若い世代は。そのクオリティでよしとされるコミュニティもあるかもしれないけど、見る人が見たらすぐバレる。そういうのって長続きしないからね。知識があることが偉いわけじゃないけど、知識があることで自分の表現の幅が広がったり、奥行きが出たりするわけだからさ。なるべくいろんなもの見るべきだと思うし、俺自身も普段から自分にそう言い聞かせている。どのようにしてそれらを自分のものにするのか。もっと考えるべきだと思う。写真は押せば写るから。

 

ー 現代写真的なアプローチ、例えばダグ・リカルドやダニエル・ゴードンのような新たな写真表現には興味がないんですか?

全くないね。それはそれだし、俺は俺。俺は今ある現実をそのまま伝えたいから。これからもずっとストレートな表現をしていくと思う。

 

ー 映像作品にも興味はないですか?

それもないかな。そもそも映像でやりたいことがないから。というより写真でしかできないことにしか興味がないって言った方が良いかもしれない。映像で撮っていても、これは写真にした方が良いなと思ってしまう。映像って古くなるんだよね。過去のものになってしまう。その点、写真は過去のものでも過去に感じなかったり、物語の紡ぎ方によって新しく見せることも出来るから。今回の『黄色い太陽』もまさしくそうで、一冊にすることで過去と現在、未来までもがリンクしてるんだよね。

 

ー 写真は時間の流れに左右されないと?

そう。だから森山大道さんが言っていた「過去は常に新しく、未来は常に懐かしい」というのはすごくわかる気がする。俺の中でも写真をそう解釈している。写真は時の制約も受けないし、嘘と真実のどちらも伝えることが出来るメディアだから、それをどう用いてどう表現するかが写真家の在り方なんだと思う。

ー 自身が被写体になることについてはどう思いますか? 今回の取材はポートレイト撮影なしですが、もし撮られるとしたらその写真家に撮って欲しいですか?

撮られることには全く興味ないんだよね。誰に撮って欲しいとかもないかな。

 

ー 対談するとしたらこの写真家と話したいという人はいますか?

(ウォルフガング・)ティルマンスかな。あともし生きていたら深瀬昌久さん、東松照明さんとは話してみたかった。

 

ー 今進行中のプロジェクトについて教えてください。

今年はけっこう写真集を出版する予定なんだよね。2月には「SALT AND PAPPER」から一冊出すし、「SUPER LABO」からも出す予定。あとはコニーアイランドで撮影したポートレイトシリーズがあるから、それも何らかの形で一冊にしたいと思っている。

 

ー 楽しみです。ちなみにこれまで十数冊の写真集を刊行していますが、個人的に一番気に入っている写真集はどれですか?

『黄色い太陽』と答える。最新だから。自分でも満足いく出来になったしね。何十年も残る写真集を意識して作ったから、何十年後にまた見てもまったく色褪せてないといいよね。

(information)

小浪次郎 写真展「黄色い太陽-Burning Dropー」
PLACE:PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)
ADDRESS : 東京都渋谷区宇田川町15-1
TEL : 03-6455-2697
TERM:2021年12月24日(金)~ 1月17日(月) 11:00-20:00 ※会期終了
FEE:一般 700円 学生 500円 ※小学生以下無料
WEBSITE:art.parco.jp

PROFILE

小浪次郎

Photographer

Jiro Konami 1986年生まれ。写真家。活動初期より8年間、自身の父親を撮影し続け、絶妙な親子の距離感を記録した作品で2010年に富士フォトサロン新人賞を獲得するなど高い評価を得る。これまでに2013年『父をみる』、2014年『personal memory』、2015年『PARADAISE TOKYO』、2017年『GIMATAI』、2018年『Straigt,No chaser』、2021年『舐達麻』などの写真集を刊行。
主な個展に2011年G/P FRONT LINE SHOW 「complex and more」(Spiral garden)、2012年「UK-curtain call 」(KONICA MINOLTA Gallery)、2013年「Loolong at my father」(Fuji film salon)、2016年「GIMATAI」(Book Marc)、2021年「GIMATAI」(common Gallery)等、グループ展も多数行う。
2017年より活動拠点をニューヨークに移す。『The New York Times』『i-D Magazine』などで作品を発表している。

Web jirokonami.jp
IG @jirokonami