2021.12.19

Public Art Study Vol.002 - Tokyo / Japan

#LIFE STYLE

Photography_Kiyotaka Hamamura
Edit_Sohei Oshiro, Akane Ono(POST-FAKE)

2021.12.19

知れば世界の解像度が上がる!
魅力的なパブリック・アートの世界

美術館やギャラリーではなく、公共の場に設置される芸術作品「パブリック・アート」。視界には入っているはずなのに、きちんと認識している人は少ないのでは? 実は意識を向けるととても楽しいのがパブリック・アート。無料で、しかも至近距離で鑑賞できるし、待ち合わせ場所にも出来るし、フォトジェニックだし、知っていればちょっとした蘊蓄だって披露できる。今日の生活を少しでも豊かにするために、世界の解像度を少しでも上げるためにパブリック・アートを知っておこう。〈POST-FAKE〉では、全国各地のパブリック・アートを勝手気ままに紹介していく。撮影を手掛けてくれたのは、今もっとも勢いのある写真家の一人、濱村健誉氏。静謐ながらも力強い世界観で街中のアートを切り取ってくれた。

Tokyo Brushstroke I by Roy Lichtenstein

『Tokyo Brushstroke I』 ロイ・リキテンスタン (1993)
material: アルミニウム
size: –
place: goo.gl/maps/USk4hRmzfCAkR1Q79

西新宿駅からわずか1分ほど歩いたところに、異質な2つの彫刻作品が佇んでいる。実はこの作品を手掛けているのはアンディ・ウォーホルらと並ぶポップ・アート界のスーパースター、ロイ・リキテンスタインだ。たとえ彼の名を聞いたことがない人でも、あの漫画をモチーフにした作品(例えば『ヘアリボンの少女』)は誰でも一度は目にしたことがあるに違いない。いや、むしろその作品群の印象が強烈すぎて、かえって彫刻作品も制作していたというのは意外と知られていないのかもしれない。リヒテンスタインは1980年代から二次元の存在を三次元に変えることにより、「筆跡」という主題の拡張に挑戦。そして晩年には「筆跡(=Brushstroke)」というドストレートなタイトルを冠したシリーズを世界各都市に配置している。この『Tokyo Brushstroke I』もそのひとつ。一見あの漫画モチーフの作品とはかけ離れた印象を受けるが、この作品も東京の都市空間をキャンバスに描かれたリヒテンスタインの「筆跡」なのである。

LOVE by Robert Indiana

『LOVE』 ロバート・インディアナ (1993)
material: アルミニウム
size: 3.6m四方×奥行き1.8m
place: goo.gl/maps/oQ8wvnJA4nf62fx39

パブリック・アートの知名度ランキングなんてものがあったとしたら、間違いなく上位にランクインするぐらい有名な彫刻作品だ。タイトルは言わずもがな『LOVE』。作家のロバート・インディアナは、もはやアメリカでは知らない人がいないぐらいのアート界のスーパースター。アンディ・ウォーホルらとポップアート運動に関わっており、最初はドローイングを制作していたが徐々に「彫刻的ポエム」というこのスタイルを確立。「LOVE」以外にも「EAT」、「HUG」、「HOPE」などなど、多くのワードを使用した作品を世界中に残している。この作品の影響は計り知れず、アメリカでは切手や数々のポスターにも使用されているし、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの『Renegades』のジャケットのように、このデザインをサンプリングするアーティストも後を絶たない。ただ、インディアナ自身はこの作品のイメージの著作権をとっていないため、非公式に複製される例も多いみたいだ。日本国内ではとあるラブホテルの名前にまで使われているとか……。パブリック・アートはときにラブホテルの看板にまで影響を与えてしまう。もはやその看板も新たなアートとなりうるのか?奥深し、アートの世界……。

The Fanatics by Tony Cragg

『The Fanatics』 トニー・クラッグ (2006)
material: ステンレス
size: H3680 x W900 x D900mm
place: goo.gl/maps/mgSRJWfs9LYGGYJC7

この写真をみても、岡本太郎の『明日への神話』やロバート・インディアナの『LOVE』のように「あ、見たことある!知っている!」という人は少ないはず。なぜなら誰もが目につくような場所に設置されていないから。この彫刻作品は六本木ミッドタウンの裏手にある広場の通り沿いにひっそりと佇んでいる。手掛けたのはイギリスはリバプール出身のコンセプチャル・アーティスト、トニー・クラッグ。彫刻に新たな意味を見いだすという1980年代のムーブメント「ニュー・ブリティッシュ・スカルプチュア」をリードした人物だ。今現在もさまざまな素材を自在に使い、その機能や形態に着目しながら人間と自然の関係性をテーマにした作品を作り出している。「Fanatics(=狂信者)」と名付けられたこの作品にもそのコンセプトは色濃く反映されており、楕円形とその断面からなる幾何学をベースにしたステンレス製の彫刻には、いろいろな角度から見ると、いくつかの人間の横顔が隠れている。見れば見るほど、まるで生き物のように見えてくる不思議なパブリック・アートだ。

SANJIN yama no kamisama by Masashi Takasuka

『SANJIN やまのかみさま』 高須賀昌志 (2006)
material: スチール
size: H3100 x W8000 x D6400 mm
place: goo.gl/maps/KZghnN3rS7MEsmMe9

どうせパブリック・アートを設置するなら、ただ眺めるだけでなくみんなが遊べるものになれば最高じゃない? そんな想いが実現しているのがこの作品。六本木ミッドタウンの裏手にある檜町公園に置かれた本作は、巨大なアートであると共に子供が遊べる「すべり台」にもなっている。手掛けたのは“風景をつくる彫刻家”、高須賀昌志さん。同敷地内には、『SANJIN やまのかみさま(すべり台)』だけでなく、『FUJIN かぜのかみさま(ブランコ)』と、『KAIJIN うみのかみさま(プレイジム)』という高須賀さんの手による3つのパブリック・アートが設置されている。眺めているだけでも楽しいし、遊んでも楽しい。その最高のパプリック・アートが置かれた公園には、平日だというのに多くの人たちで賑わっていた。子供連れはもちろん、友達や恋人とでも、たとえ一人でも、アートがあるだけでその空間を楽しむことができる。それもまたパブリック・アートの魅力のひとつなのだ。

KAIJIN umi no kamisama by Masashi Takasuka

『KAIJIN うみのかみさま』 高須賀昌志(2006)
material: スチール
size: H680 x W4500 x D4500 mm
place: goo.gl/maps/676UpVn1CgYP6Egt8

同企画内で紹介した『FUJIN かぜのかみさま(ブランコ)』と共に、“風景をつくる彫刻家”高須賀昌志さんが手掛けた遊具の機能を合わせもったパブリックアート。こちらは『SANJIN やまのかみさま(すべり台)』と名付けられたプレイジム。伝統的な「文様」や「紋」のかたちを借りたという本作は、はたなびく波と雲の立涌の文様からインスピレーションを受けている。写真の印象よりはだいぶ大きな作品で、撮影当日も子供たちが上に立ってバランスを取ったり、下を潜ったりと、作品の枠内だけで鬼ごっこをしたりと、さまざまな感性で作品と戯れていた。遊具とアートが融合による、眺めても遊んでも楽しいパブリック・アート。この檜町公園を筆頭に、もっとこういう空間が注目を浴び、子供たちの遊び場やアーティストの活躍の場や増えることを願うばかりだ。