2021.11.23

NFTを噛み砕く、超ざっくり入門

#SHORT COLUMN

Edit&Text_Yuzu Murakami

よくわからないけど近頃よく聞く言葉、「NFT」。ここ1年ほど、NFTのアート作品が高額落札されたとか、ラグジュアリーブランドがNFTコレクションを販売したとか、香取慎吾がNFTアートチャリティプロジェクトを立ち上げたなどと、NFT関連の取り組みが続々と現れています。そこで今回は、NFTのおおまかな理解の仕方について考えます。(あくまで本記事はおおまかな理解の仕方なので、詳しい説明は他の方の解説をごらんください!)

で、NFTってなんなの?というと、NFTとはブロックチェーン技術によって発行される証明書のようなもの。で、そもそもブロックチェーン技術ってなんなの?という人にざっくりと説明すると、ブロックチェーン技術は、デジタルデータを「一点物」「オリジナル」にすることができる技術です。

例えば、デジタル・ドローイングで描かれた絵画(のデータ)は、いわゆる「リアル」の場で「もの」として存在しているわけではないので、それを複製した瞬間にどちらが本物か見分けがつかなくなります。デジタル・データとして存在しているものは、いくらでも複製が可能であるため、そこに「唯一性を保証しますよ」という保証書のような役目をするのがブロックチェーンです。たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「サルバドール・ムンディ」は4億5030万ドル(日本円だとおよそ508億円!)で落札されましたが、あの絵画がここまで高額なのは、それが世界に唯一の絵画であることによるもの。デジタル・データもそんなふうに唯一性が保証できれば、こんなふうに高額な価値のつくものになるのではないか?ということで、ブロックチェーンの技術が使われています。

ブロックチェーンには様々な種類がありますが、NFTは、画像ファイルやURLなどの「保有権」を証明するもの。つまり、「わたしが売りました、買いました」ということを証明するものです。

例えば、たとえば、インスタのひとつの投稿を想像してみてください。インスタに掲載された写真が、スクショされて別の人の投稿になり、それが無尽蔵に広がってもはや誰が最初に投稿した写真かわからない、ということは珍しいことではありませんが、あの投稿にはURLがあるため、そのURLをNFTの商品として値段をつけ販売することができます。すると、それを買った人には、保有権と「このインスタの投稿はわたしが最初の投稿者からきちんと買いました」という信頼を得ることができる、というわけです。

「じゃあ、そのインスタの投稿は権利を持つ人以外には見えなくなるの?」というと、そういうわけでもないのです。たとえば、先日75億円で落札されたBeepleの「The first 5000 days」も、作品画像をインターネット上で見ることはできるのが現状。

ではなぜ、購入者はNFT商品を買うのでしょうか?

例えば、NFTファッションブランド「RTFKT (アーティファクト)」はNFTスニーカーなどを発表しているデジタル・ブランドです。

近年、リアルなスニーカー市場では、コレクターが、着用するためではなくコレクションと転売の目的でスニーカーを買い求め、NikeやSupremeなどショップには長蛇の列がちょくちょくできていますよね。高額なものでは数百万円になったものもあるのです。NFTスニーカーは、そうしたコレクションと転売から成り立つスニーカー文化に目をつけたRTFKTが、フォートナイトのようなゲームにおいてプレイヤー(のアバター)が着用し、他のプレイヤーに見せることができるものとして販売しています。

つまり、転売・コレクションされるだけでほとんど履かれることがないコレクター向けのスニーカーにおいて、その実体を無くすことによって、その売買をより加速させると同時に、デジタルの世界で「履ける」ものにしたのですね。

一方で、最近では、小学生(Zombie Zoo Keeperさん)が夏休みの宿題として書いた絵(ピクセル・アート)が380万円になった([https://www.businessinsider.jp/post-241969])というニュースが話題になりましたが、こちらはもちろんデジタルの世界で着用するものではありません(Twitterのアイコンにはできます)。すでに偽作品が出てきているとのことですが、それもある意味では当然。デジタルの世界ですから、複製それ自体を防ぐことはやはりできません。購入者が買ったのは、あくまで〈Zombie Zoo Keeperさんから「買った」という事実の保証〉。そして、Zombie Zoo Keeperさんのもとには、その保有権が転売されたときの販売(転売)手数料が入るという仕組みになっています。

もちろん、かわいらしい絵画ですし、オリジナリティはあると思いますが、実際、芸術として、この絵画がそのリアルな世界で換算した価値に叶う作品である、とは言い難いのが現状です。明らかに子供が書いたかわいらしい絵に過ぎないこのピクセル・アートが高額取引されるのは、やはりこれがNFTのアートである、というところが大きいのではないでしょうか。

それでも、今後もこの類の高額取引はしばらく世間を賑わせると思われます。「高額商品を買った事実」という見栄、複製可能なデジタル・データへの独占欲、そして転売益…そうしたいくつかの思惑によって、まさにいま、新たな次元でのファッションやアートの価値が作られているところであり、ここで上げている事例はまさにそうした過渡期ならではの出来事です。いわば今なら誰にでもスーパーアーティストになれる可能性に開かれているNFTアート市場は、既存のルールや価値を超えた世界とも言えそうです。この価値がこれからの世界でも通用するかどうかは私たち次第。ご興味のある方はぜひ参入してみてはいかがでしょうか。ではまた!

PROFILE

村上 由鶴

Writer

写真研究者・美術批評1991年埼玉県出身。日本大学芸術学部写真学科助手を経て、東京工業大学大学院環境・社会理工学院博士後期課程在籍中 (伊藤亜紗研究室)。専門は写真の美学。「The Fashion Post」「幻冬舎plus」での連載のほか雑誌やウェブメディアに寄稿。