2021.10.11

Public Art Study Vol.001 - Tokyo / Japan

#LIFE STYLE

Photography_Kiyotaka Hamamura
Edit_Sohei Oshiro, Akane Ono(POST-FAKE)

2021.10.11

知れば世界の解像度が上がる!
魅力的なパブリック・アートの世界

美術館やギャラリーではなく、公共の場に設置される芸術作品「パブリック・アート」。視界には入っているはずなのに、意外ときちんと意識している人は少ないのでは? 実は意識を向けるととても楽しいのがパブリック・アート。無料で、しかも至近距離で鑑賞できるし、待ち合わせ場所にも出来るし、フォトジェニックだし、知っていればちょっとした蘊蓄だって披露出来る。今日の生活を少しでも豊かにするために、世界の解像度を少しでも上げるためにパブリック・アートを知っておこう。〈POST-FAKE〉では、全国各地のパブリック・アートを勝手気ままに紹介していく。撮影を手掛けてくれたのは、今もっとも勢いのある写真家の一人、濱村健誉氏。静謐ながらも力強い世界観で各作品を切り取ってくれた。

Tree of Children by Taro Okamoto

『こどもの樹』 岡本太郎 (1985)
material: 繊維強化プラスチック (FRP)
size: 高さ7.5m×幅5.2m
place: https://goo.gl/maps/XW4JMN3Gdsetc2is8

渋谷駅から宮益坂を上がると左手に見えてくるのが岡本太郎のこの彫刻。もとは1985年国立総合児童センター「こどもの城」の開館と同時に、敷地内にシンボルモニュメントとして設置されたもの。「こどもの樹」と名付けられたこの彫刻は、樹木の枝先に様々な子供の顔を配置することで、個性豊かな人生の在り方を示すと共に、「子供はひとりひとり違うものだから型にはめるんじゃないぞ」という教師や親へ対する痛烈なメッセージが込められている。子供が枝に登って壊すかも知れないので台座をもっと高くしてくれとの要請に、岡本太郎は「子どもが見るんだぞ!そんな、見えないような高さにして何になる?」と一蹴したんだとか。子どもの生命力と植物の生命力がぶつかり、混じり合ったような強烈なパブリック・アート。児童センターは2015年に閉館してしまったが、「こどもの樹」は今もその存在感を携えたまま同じ場所に佇んでる。

Sun Dial by Hiroshi Sugimoto

『Sun Dial』 杉本博司 (2018)
material: アルミ無垢材
size: 高さ12m
place: https://goo.gl/maps/1abAZ8WAQ8MMAWhd7

「細くてなっげ〜〜!」が多くの人にとっての第一印象になるであろうこの作品。実は日本を代表する現代アーティスト、杉本博司が大手町プレイスの開業に合わせて設置したもの。三次関数の数式を立体的に表現した数理模型シリーズのひとつであり、作品名が記されたプレートには、本作が示す数式も表示されている。タイトルの「SUN DIAL」とは日時計のこと。高さ12メートルもの巨大な彫刻そのものが日時計となり、春分・秋分の昼が等分された南中時のひと時を、影を通じて感じることができるというのが作品のコンセプト。この写真の影の位置を見て、何時かわかった人がいたらあなたは筋金入りのアートフリークだ。都内では、オーク表参道のエントランスでも同シリーズの作品を見ることができる。

Poly Stella by Carsten Nicolai

『Poly Stella』 カールステン・ニコライ (2009)
material: ステンレス/アルミニウム
size: 高さ3.5m×幅3.5m×奥行き3.5m
place: https://goo.gl/maps/ZV8AsiWnwBBbJaAq8

カーステン・ニコライというアーティストを知っているだろうか? 音楽に造詣が深い人ならば、アルヴァ・ノトと言った方が伝わるかもしれない。ニコライ名義では視覚芸術を手掛け、ノト名義では多様な実験音楽の作品をリリースしているドイツを代表する現代アーティストだ。霞ヶ関ビルディングの広場に2009年に設置されたこの作品は、実はニコライが初めて手掛けたパブリック・アート。「Poly Stella(=多くの星)」というタイトルが示すように、単一のステンレスでできた鏡面を30枚も集積することにより、周囲の光景や天気によって常に表情を変え続ける、まるで生き物のような作品だ。無機質なビルに囲まれていることもあって、まるで近未来からきた謎の物体かのようにも見える。写真を撮ろうとiPhoneを向けると謎のアクションが起こるかも…?

Roots by Jaume Plensa

『Roots』 ジャウメ・プレンサ (2014)
material: ステンレススチール/塗装
size: 高さ10m
place: https://goo.gl/maps/XM9U9tjnvRjoWiZy6

スペイン出身の世界的アーティスト、ジャウメ・プレンサが手掛けた作品を眺めていると不思議な気持ちが沸き起こってくる。2014年、虎ノ門ヒルズのオーバル広場に設置された10の大型彫刻「Roots」もその一つ。8つの言語の文字を使い、膝をかかえて座る人間をかたどった巨大なパブリック・アートだ。プレメンサはこの作品を、根(ルーツ)が土から芽を出すように、日本の伝統という大きくて豊かな土壌から、新しい文化や発展が生まれているようなイメージで作ったという。スチールで作られているはずなのに、じっと見ているとあたかも血の通った生きた人間に見えてくるのは、アーティストの力のなすところだろうか。

Cloud by Leandro Erlich

『Cloud』 レアンドロ・エルリッヒ (2011)
material: ガラス
size: 高さ約2.5m×幅約2.5m
place: https://goo.gl/maps/7tw34xfbDMnPabTz9

東京は霞ヶ関のオフィス街を歩いていると、ガラスで作られたボックス型のオブジェが目に飛び込んでくる。中に閉じ込められているのは、まさかの「雲」!これはアルゼンチン出身の現代アーティスト、レアンドロ・エルリッヒによるアート作品。レアンドロ・エルリッヒと聞いてピンとこない人も、金沢21世紀美術館のあのプールの作品を手掛けた人だといえばわかる人も多いはず。人の知覚を揺るがすような作品を多く発表しているエルリッヒが、10枚のガラスを重ねることにより、「大海原に浮かぶ自由な雲」を立体的に表現した作品がこの「Cloud」シリーズだ。LEDライトを内蔵しているので、昼と夜とでまた異なる表情を見せてくれる。ぜひ足を運び、世界的なアーティストの作品の持つパワーをその目と肌で感じてほしい。

PROFILE

濱村健誉

Photographer

1986年、山口県下関市生まれ。20歳でロンドンへ渡英。
ドキュメンタリーを中心に撮影後、帰国しイイノスタジオで勤務。その後ニューヨークへ渡米。自身のアートワークとMagnum Photosでのインターンを経て、現在東京をベースに活動中。

WEB kiyotakahamamura.com
IG @kiyotakahamamura